風と、光と・・・

すべての人を照らすまことの光があって、世にきた。(ヨハネによる福音書1:9)

葛原妙子の短歌とキリスト教

小鳥の巣も

讃美歌77の3番にこんな歌詞を見つけた。讃美歌77 3 荒ぶる夜あらし 声たけりて ちからの限りに 吹き来ばこよ み許しあらずば、みねの松に かけたる小鳥の 巣もうごかじ 昨日は、台風の迫り来る礼拝でこの讃美歌が歌われた。なんてタイムリーなんだろう…

葛原妙子25

寺院シャルトルの薔薇窓をみて死にたきはこころ虔しきためにはあらず『薔薇窓』 第四歌集『薔薇窓』の後書きである「『薔薇窓』について」には次のような文章が記されている。 こころ虔しきためにはあらずーの歌は、一生のうちにこの美の極致をみたい、とい…

葛原妙子23

その胸よひた思ふなり肋骨が知慧(ちけい)のごとく顯ちたる胸を『飛行』 自分の中に弱さや醜さを見つけて苦しむと、人はキリストの苦しみに思いを向け始めるのだろうか。ゆだやびと花の模様をもたざりきその裔にして生(あ)れしきりすと『薔薇窓』 キリス…

葛原妙子22

第一歌集『橙黄』には原罪について詠った短歌がある。 ここでは、後に改変され森岡貞香によって異本とされたほうから引用したい。原罪をうべなふつつしみ缺けし者容れし御堂の色玻璃昏し 異本『橙黄』 この歌は、妙子が娘さん達の通っておられたミッションス…

葛原妙子21

葛原妙子の第一歌集『橙黄』にはイヴのことを詠った次のような短歌がある。禁斷の木の實をもぎしをとめありしらしら神の世の記憶にて イヴといふをとめのありしことすらや記憶にうすれゆくこのごろか ところが、その後妙子自身の手で大幅に改変されたという…

葛原妙子19

「葛原妙子7」で、私は、「葛原妙子の家庭環境について検証するつもりはない」と書いたのであるが、ここにきて、生い立ちについて触れずにはおれなくなってきた。生い立ちというのは、自己というものが拠って立つ場に大きく影響を与えているであろうから。…

葛原妙子20

葛原妙子の随筆集『孤宴』の中に「聖母像妄語」というものがある。抜粋引用してみたい。 家族のひとりがもって来た某誌、聖母特集号をひらいた。 ・ 黒聖母は後頭部に円光を負うてはいない。頭に密着したベレー帽のごときをつけているに過ぎず、この神ならざ…

葛原妙子18

葛原妙子が「幸せな大詰め」を迎えるために、ご長女の猪熊葉子さんは欠かすことの出来ない存在であったと思う。けれど『児童文学最終講義』を読むと、妙子は葉子さんよりも先にカトリックに無意識のうちに引き寄せられていたのではないかと私には思える。『…

葛原妙子17

奔馬ひとつ冬のかすみの奥に消ゆわれのみが纍々と子をもてりけり『橙黄』 葛原妙子のご長女である猪熊葉子さんは『児童文学最終講義』の中でこの短歌を紹介した後、次のように言っておられる。 「子どもの立場から言えば、どうしてそんなに累累と子どもたち…

葛原妙子16

クリスチナ・マヌエラと云ふ汝が教へ名うるはしみ思へかかるゆふべは『橙黄』 葛原妙子のこの短歌が載っている『橙黄』には、次のような歌もある。娘(こ)を領せむすでにあやふし受洗のこと息つめて一夜あらそひしのち をとめの日わが持たざりし堅忍を祕め…

しあわせな大詰めを求めて

『児童文学最終講義しあわせな大詰めを求めて』猪熊葉子=著(すえもりブックス)「しあわせな大詰めを求めて」というサブタイトルに惹かれて読んだ。とても歯切れが良くて、面白く読めるんだけど、泣けた。 ずっとあとになって、「妖精物語について」を訳す…

瓦礫処理問題についてこんなブログを見つけた

瓦礫処理について色々掲載しているこんなママさんブログを見つけた。 ↓ 「琴線」 だが、このところ大飯原発再稼働の準備も着々と進んで、「死なば諸共」の観を呈してきている。いや、チェルノブイリから2000キロ離れた牧草から未だに高い放射性物質が検出さ…

葛原妙子14

悲傷のはじまりとせむ若き母みどりごに乳をふふますること 十字架を組みたる材はなにならむ荒れたる丘の樫のたぐひか 風媒のたまものとしてマリヤは蛹のごとき嬰児を抱(いだ)きぬ 「葛原妙子5」で取り上げたこの三首は、妙子の第五歌集である『原牛』の中…

葛原妙子15

「ラビ安かれ」裏切のきはに囁きしかのユダのこゑ甘くきこゆる『原牛』 「葛原妙子12」で私はこの短歌を取り上げて、「ここにも、イエスを十字架にかける罪ある者として自らを捉える視点が働いている」と書いたのであったが、考えてみれば、裏切るというの…

赦(ゆる)しを乞う

赦せない思いに苦しんだことがある。 人を赦せない自分だからこそ赦しを乞わなくてはならないと思う。死の残酷消炭のごとあはあはと描けるサザーランドの「荊冠」 葛原妙子歌集『鷹の井戸』より

葛原妙子12

十字架を組みたる材はなにならむ荒れたる丘の樫のたぐひか『原牛』 葛原妙子は、この短歌の「荒れたる丘」をどことして頭に浮かべていたのだろうか。イエスが処刑されたというゴルゴタの丘であろうか。ゴルゴタの丘はエルサレムの城壁の外にあったと言われて…

葛原妙子13

十字架を組みたる材はなにならむ荒れたる丘の樫のたぐひか『原牛』『葛原妙子全歌集』(砂子屋書房)の中にこの短歌を見つけた時、私は、妙子が「樫」というのをどういうところから発想したのだろうと考えた。そこで聖書の中で樫の木がどのように記されてい…

キリストに十字架への道を指し示した人達

ある時の牧師不在の祈り会での担当長老のお話が興味深かった。マタイによる福音書16章13節〜19節。 イエスは、フィリポ・カイサリア地方に行ったとき、弟子たちに、「人々は、人の子のことを何者だと言っているか」とお尋ねになった。・・。シモン・ペトロが…

葛原妙子10

葛原妙子の第一歌集『橙黄』は1950年、妙子43歳の時に出されている。この中に、次の短歌が入っている。人間をしんじつ孤りとおもへどもその夜の觸れし掌(たなうら)よ熱かりき『橙黄』 1974年に『葛原妙子歌集』が三一書房から刊行された時、『橙黄』は妙子…

葛原妙子11

審(さば)かるるものの質ありさびしきとき美しきものを凝視する瞳(め)に『飛行』 葛原妙子のこの短歌も第三歌集『飛行』の中にあるものだが、読むものに何とも悲痛な感覚を生じさせる歌だ。この歌から私が、振り向いて塩の柱になってしまった旧約聖書に出…

葛原妙子9

荒起せる土塊のひとつひとつづつ生ききたるときカインを怖る『朱靈』 無人野に人をりといふ安心は人をりといふ不安に通ず 無人の野おもむろに翳る一部分タールの如き黒となりゆく この三首は、歌集『朱靈』の中の「北邊」にちりばめられている。この「北邊」…

葛原妙子7

愛されず 人を愛さず 夕凍みの硝子に未踏の遠雪野みゆ 『薔薇窓』 聖書には「神は御自分にかたどって人を創造された」(創世記1:27)と書かれている。この前の26節では、神は(自分に)「似せて、人を造ろう」と言った、と書いてある。神に似せて造られ…

葛原妙子8

葛原妙子の「愛されず 人を愛さず」の短歌は、歌集『薔薇窓』の「氷壺」の中で、三部に分けられた中間のひとまとまりに入っている。 この三つのまとまりの、最初のまとまりの中には、次のような歌が置かれている。雪烟を卷ける岩山よこたはる巨人アダムの骨…

葛原妙子6

神ときに暗殺に介入するあらば卽ちシンバルは響かん 『をがたま』『葛原妙子全歌集』(砂子屋書房)の中の「歌集『をがたま』について」を見ると、『をがたま』には、昭和53年夏より昭和58年秋までの間に発表された作品が収録されているということが分かる。…

聖夜の朝に

開かれたる辞書の頁におはします荊(いばら)のキリスト聖夜の朝に これは、一昨年のクリスマスにつくった歌だ。その後、葛原妙子の歌集を手にしてこんな短歌を見つけた。茨(いばら)より變身せしかの聖者息絶えしかしら右に垂れたり 『薔薇窓』 写真は、『…

降誕

父知れぬ男子(をのこご)宿せる少女子(をとめご)に「喜べ!」と天使告げたりと云ふ 十字架に掛かりし人のその母の嘆きを聖書は語らずに過ぐキリストがこの世に来られた次第を聖書を辿って見ていくと、クリスマスという喜びに溢れるおさな児の誕生の時点で…

葛原妙子5

悲傷のはじまりとせむ若き母みどりごに乳をふふますること 十字架を組みたる材はなにならむ荒れたる丘の樫のたぐひか 風媒のたまものとしてマリヤは蛹のごとき嬰児を抱(いだ)きぬ 葛原妙子の歌集『原牛』の中の「風媒」の項で、上の三首がこのような順に並…

葛原妙子3

寒き日の溝の邊(へり)歩み泣ける子よ素足のキリストなどはゐざるなり 「飛行」 今回とりあげる葛原妙子の短歌はこれだ。しかし、この短歌をもって妙子が信仰を持たなかったと即断するのはどうだろうか。「キリストなどはいない」と断定してはいるのだが・…

葛原妙子4

市に嘆くキリストなれば箒なす大き素足に禱りたまへり 「鷹の井戸」この短歌を一読すれば、ある人はすぐさま、「イエスの宮清め」といわれる聖書の記事を思い浮かべるだろう。イエスは宮に入り、宮の庭で売り買いしていた人々を追い出しはじめ、両替人の台や…

葛原妙子1

宙空(ちゅうくう)の虹はキリスト 枝先に黙(もだ)してかかる木の葉の如きこの歌は、葛原妙子の次の短歌を本歌として作ったものだ。 十字架に頭(かしら)垂れたるキリストは鄢き木の葉のごとく掛かりぬ 『縄文』 葛原妙子という人は、死の数ヶ月前にカト…