朝、
患者さんは、待ってるんです。「○○先生はもう帰られたんでしょうね。だって自動車がありませんから」と悲しい表情で聞いてきます。患者さんは、医者の乗ってる自動車のナンバーを知ってますよ。「ああ、きょうは会いに来てくれなかったんだなぁ」って夕暮れの駐車場を見ています。
会えないときは無理して会わなくていいんですよ。患者さんは気をつかいますから。医者が病気のときはみんな待ってくれますよ。「外国旅行に出る」とか「休暇に行く」と言っていいんです。人間は休暇をとるものなんだということを知るのは、患者さんにとっては悪いことではありません。サリヴァンが言っているのは、「ちゃんと断りなさい」ということです。(中井久夫=著『こんなとき私はどうしてきたか』(医学書院)より)
病気の定期検査で施設から病院に行く母に付き添う日が吹雪だった時は、車を走らせるのが厳しかった。母が入っていた施設は地下鉄の最終駅からも離れていたので車を使うより他はなかった。
雪道が厳しくて「今日は行けそうにない」と電話で告げる私に、母は「無理に来なくていい」と言っていた。無理をして事故でも起こして私に何かあれば、遠く見ず知らずの土地で放り出されることになりかねないのだ。お金の管理から何から全てを私に頼っている身なのである。「施設の支払いは私の年金で間に合っているか」と、しばしば心配して訊いていたものだ。