風と、光と・・・

すべての人を照らすまことの光があって、世にきた。(ヨハネによる福音書1:9)

ソーニャと娼婦ラハブ ー ドストエフスキー『罪と罰』36

 二人がまだ寝てしまわないうちに、ラハブは屋上に上って来て、言った。
「主がこの土地をあなたたちに与えられたこと、またそのことで、わたしたちが恐怖に襲われ、この辺りの住民は皆、おじけづいていることを、わたしは知っています。あなたたちがエジプトを出たとき、あなたたちのために、主が葦の海の水を干上がらせたことや、あなたたちがヨルダン川の向こうのアモリ人の二人の王に対してしたこと、すなわち、シホンとオグを滅ぼし尽くしたことを、わたしたちは聞いています。それを聞いたとき、わたしたちの心は挫け、もはやあなたたちに立ち向かおうとする者は一人もおりません。あなたたちの神、主こそ、上は天、下は地に至るまで神であられるからです。(ヨシュア記2:8〜11 新共同訳)

 

「神さまがなかったら、わたしはどうなっていたでしょう?」ふいにきらきらと輝きはじめた目でちらと彼をふり仰いで、彼女は早口に、力をこめてささやき、彼の手をきつくにぎりしめた。

(略)

 「言わないで! 聞かないでください! あなたは、その資格のない人です!・・・・・」きびしい怒りの目で彼を見つめながら、だしぬけに彼女が叫んだ。岩波文庫罪と罰 中』p280)

 

 

 わたしはあなたたちに誠意を示したのですから、あなたたちも、わたしの一族に誠意を示す、と今、主の前でわたしに誓ってください。そして、確かな証拠をください。父も母も、兄弟姉妹も、更に彼らに連なるすべての者たちも生かし、わたしたちの命を死から救ってください。」

 二人は彼女に答えた。

「あなたたちのために、我々の命をかけよう。もし、我々のことをだれにも漏らさないなら、主がこの土地を我々に与えられるとき、あなたに誠意と真実を示そう。」(ヨシュア記2:12〜14 新共同訳)

 

いまじゃソーニャも、たいてい日暮れどきにやってくるようになりました。カチェリーナの手助けをして、できるだけの金を置いていってくれます・・・・・(岩波文庫罪と罰 上』p44)

 

マルメラードフは気を取りなおして叫んだ。「ああ、あなたにしたってほかの連中とおなじで、こんな話はただのお笑いぐさでしかないでしょうな。みじめたらしい家庭の内輪話をさらけだして、くだを巻いとるぐらいにお思いなんでしょう? ところが私にとっちゃ、こいつがお笑いぐさどころじゃない! なにしろ私は、こいつをいっさい、じかに胸で感じとれるんですから・・・・・で、私の生涯に一度きりのあの天国の一日には、いえ、その晩もそうでしたな、私自身それこそ天にものぼるような空想でうきうきしておりましたよ。つまり、こうです。何もかもうまく仕切って、子どもたちにも服を着せ、家内にも楽をさせてやろう、一粒種の娘も泥沼から引きあげて家庭のふところに迎えてやろう・・・・・いや、そのほかにもいろいろと空想したものです・・・・・(p49)

 

 

でも、あなたの妹さん、弟さんについては、これですっかり身の振り方がついたわけで、私からめいめいに差しあげた金も、ちゃんと領収証を取って信用できるところにあずけてあります。まあ、万一ということもあるから、この領収証はあなたに差しあげておきましょう。さあ、どうぞ! で、その話はそれで終わりです。ところで、ここに五分利付公債で三千ルーブリあります。この金はあなたが、ご自分の分として納めてください。ただ、この金のことは私たちの間だけのことにして、どんな話を聞かれても、だれにも言わないように。この金はあなたにとって必要なはずです。なぜって、ソフィヤ・セミョーノヴナ、これまでのような暮らしをつづけるのは、見苦しいことですし、そんな必要ももう全然ないのですから」

 「わたし、すっかりお世話になってしまって、それから子どもたちも、母も」ソーニャはせきこんだ調子で言いだした。「これまでお礼もろくに申しあげられませんでしたけど、でも・・・・・どうか悪くお取りに・・・・・」

 「いや、たくさんです、たくさんです」

 「でも、このお金は、アルカージイ・イワーノヴィチ、たいへんありがたいのですけれど、でも、いまはわたし、必要ありません。わたしひとりなら、なんとか食べていけますし。どうか恩知らずだなどとお取りにならないでください。あなたがそんなにお情けぶかい方でしたら、どうぞこのお金は・・・・・」

(略)

あなたにあげるのはあのひとにあげるのと同じことなんです。それにあなたは、リッペヴェフゼリ夫人に借金を払うと約束された、私は聞きましたよ。どうして、ソフィヤ・セミョーノヴナ、あなたはそんなふうに考えもなく、そんな約束だの義務だのを背負いこまれるのです?あのドイツ女に借金があったのはカチェリーナ・イワーノヴナで、あなたじゃない。あなたはあんなドイツ女なんぞ、知ったことじゃなかったんです。そんなふうじゃ、世の中を渡っていけませんよ。(岩波文庫罪と罰 下』p305~307)

 

ヨシュアは娼婦ラハブとその一族、彼女に属するすべての者を生かしておいた。彼女はイスラエルの中に住んで今日に至っている。ヨシュアが斥候としてエリコに遣わした者たちを、彼女が匿ったからである。(ヨシュア記6:25 フランシスコ会訳)

 

 

 

私のように、ドストエフスキーが、ヨシュア記を読んでいないということはあり得ないから・・。