風と、光と・・・

すべての人を照らすまことの光があって、世にきた。(ヨハネによる福音書1:9)

墓標抱きて

建ち並ぶ墓標抱きて山、紅葉

今年の初雪は早かったようだが、札幌に住んで一番良かったのは居ながらにして紅葉狩りができたことだ。というより、紅葉に包まれて数週間を過ごすことができたことだ。
中央図書館に行く道からお墓の建ち並ぶ山の中腹が見えた。他の季節には目に入らないのだが、紅葉の季節になると何故かお墓が私の目に入ってくるのである。そして思うのだ、死後、こんなところで眠れたらどんなにいいだろう、と。

今年9月に亡くなったK姉妹は「誰にも会いたくない」と言っておられたが、牧師の見舞いは受け入れてくれた。「牧師さんがお見舞いに来られていますが部屋に入って貰って良いですか?」という看護師の言葉に手を握り返されたそうだ。それで夫は最後の数回を姉妹に会うことが出来た。姉妹が言葉を発することはなかったが、「また来ますね」という言葉に、目はつむったままだったけれど、しっかり肯いてくれたという。
牧師の仕事というのは、まず第一に、聖書から聴いて福音を語り伝えることだと思うが、ここにも、牧師固有の大きな務めがあると思う。つまり、この世界から神の御国へと橋渡しするという務めである。

特別な事情のある場合でなければ、私がお見舞いや訪問をすることはない。けれど、私には私なりの務めがあると考えている。
姉妹に病気が見つかった一年後のイースターの墓地礼拝で、私はK姉妹の隣に立った。墓地では、集った一人一人が短く祈る。この時、私は、姉妹に向かって姉妹のために祈った。「私たちは生まれた時から死に向かって歩んでいます。けれど私たちは、死を越えて神の御国に入れられることを知っています。神の御国に向けて今を生きることができますように」

キリスト者とは、「死を抱いて生きる者」のことではないだろうか。
「死を愛しんで生きる者」のことをキリスト者と呼ぶのだ。
「死」とは、私たちのために十字架上で死なれたイエスキリストの「死」である。
私たちは、「キリストの死」をいつも胸に抱いて生きる者達なのだ。

あわれみに富む神は、わたしたちを愛して下さったその大きな愛をもって、罪過によって死んでいたわたしたちを、キリストと共に生かし…キリスト・イエスにあって、共によみがえらせ、共に天上で座につかせて下さったのである。(エペソ人への手紙2:4~6)

これらの人はみな、信仰をいだいて死んだ。まだ約束のものは受けていなかったが、はるかにそれを望み見て喜び、そして、地上では旅人であり寄留者であることを、自ら言いあらわした。…。事実、神は彼らのために、都を用意されていたのである。(ヘブル人への手紙11:13,16)

 当時、キャベツ畑の空間線量は1.8μSv/h、自宅も1.3μSv/h。ビニールハウスに至っては、2μSv/hをはるかに超えていた。原発から60km離れた須賀川にも容赦なく放射性物質は降り注いだ。しかし、遠く浜通りから中通りにまで放射性物質が飛んで来ているなんて報道は無かった。 
(中略)
「結球野菜は出荷停止」
 8000個のキャベツ、ブロッコリーが「全滅」した瞬間だった。夕食時、食卓でFAXを読んだ親父はうつむいていた。何より大切にしていた土を放射能に汚された。先祖代々受け継いできた畑。朝から晩まで汗水流して働いた畑。プラント建設会社を辞めて農業の道に入った息子に「一人前になるのに10年はかかるからな」と告げた親父。常に厳しかった親父。FAXを読み終えると言った。「お前の事、間違った道に進ませちまったな。農業を継がせたのは間違いだったかもな」。この時の親父の絶望感を、東電や国は理解出来るだろうか。たった独り、キャベツ畑の片隅で逝った親父の無念さを。
(中略)
 「風評被害」という言葉が飛び交い、2011年の「新語・流行語」にも選ばれた。「風評って言葉がおかしいんだ」と和也さんは言う。「…。原発事故も汚染も現実。風評じゃねえんだ」。
 ひとたび原発事故が起きればどうなるか。若者に分かって欲しかった。原発に絶対的な安全など無い。…。
(中略)
 取材に応じた和也さんは「きれいな土で育てたトマトと汚染された土で作ったトマト。あなたならどちらを買いますか?誰だってきれいな土で育てたトマトを買いますよ」と、改めて「風評被害」という言葉を否定した。「5年以上経ったら汚染が無くなるんですか?何で5年が過ぎたら現実を口にしてはいけないんですか?」とも。地元で映画を上映すればあつれきが生じる事も覚悟している。それでも発信し続ける。それが天国の親父から託された使命。
 つらくて、親父が命を絶った木は伐った。今は大きな切り株だけが残る。和也さんは、若者たちにこう伝えることも忘れていなかった。
 「自殺は、遺された家族が表現できないほどの傷を負う。自分で命を絶っては駄目だ」(抜粋)