風と、光と・・・

すべての人を照らすまことの光があって、世にきた。(ヨハネによる福音書1:9)

レシピの付いた物語2

御使いが彼に触れて言った。「起きて食べよ。」見ると、枕もとに焼き石で焼いたパン菓子と水の入った瓶があったので、エリヤはそのパン菓子を食べ、水を飲んで、また横になった。(列王記上19:5〜6)










『幸せな結婚はパンケーキの匂いがする』モラグ・プランティ作(徳間書店
ポブス
 あなたのお母さんは、子どものころ食べものの好ききらいが激しかったから、わたしが料理したものを食べようとしないときは、温めたミルクにパンを浸して柔らかくし、砂糖をふりかけて与えたものよ。・・。
 ときには、ごくさっぱりしたものしか胃が受けつけないこともあるわね。ポブスなら、小さい子どもからお年寄りまで誰でも食べられる。・・。わたしは最近こう思うようになったの。食べものについてあれこれ言ってみたところで、結局、わたしたちにほんとうに必要なのは、パンとミルクと、ときおり甘みを加える少量の砂糖だけかもしれない、と。


 ジェームズが逝ったのは火曜日だった。
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 昼食には、ベーコンとキャベツを入れたマッシュポテトを作っておいた。ジェームズはほとんど食べものを受けつけなくなっていたけれど、それでもわたしは、栄養バランスに気を配り続けた。毎日ちゃんとした食事を用意して、食べてもらえないときには、心配したり小言を言ったりした。・・。
 火曜日。この日、わたしは折れることにした。夫の望みを聞き入れて、昼食にポブスを作ってやったのだ。ひとこと、「ポブス」とだけ言ったジェームズの口調は、まるで子どものようだった。
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 ジェームズが逝ったその瞬間、思ってもみなかったことが起こった。
 初めて夫に「愛している」という言葉をかけてみて、わたしはそれが真実であることに気づいたのだった。
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 ・・。夫婦愛とは、炎が燃え尽きたあとの瓦礫に埋もれている金鉱のようなものだろう。その隠れた宝を見つけるのに、何十年もかかるかもしれないが、大切なのはそれを探し続けることだ。
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 愛を与えられた者は、それを空費する権利を持つ。しかし、その権利を行使するのは愚か者だ。愛を与えると、その愛は入念に剪定を施したバラのように、自分の中で育ち、やがて花を咲かせる。愛は喜び。誰かを愛する人は、どんな屈辱を味わい、どんな重荷を背負おうとも、いつも喜びに包まれている。
 ジェームズは幸福な結婚生活を送った。わたしに愛を注いだのだから。
 わたしも最後には、思わぬ形で自分が夫を愛していたことに気づいた。積極的な愛ではなく、絶対の愛でもなかったけれど。
 しかし、この世に絶対のものなどあるだろうか?
 死の訪れ以外に。

                  (『幸せな結婚はパンケーキの匂いがする』より引用)