風と、光と・・・

すべての人を照らすまことの光があって、世にきた。(ヨハネによる福音書1:9)

絵本『はなをくんくん』ルース・クラウス文、マーク・サイモント絵(福音館書店)

 「生きる意欲をかきたてる」のは、視覚でも聴覚でもなく、嗅覚なのではないかと私は思う。おいしい匂いを嗅ぐと食欲が湧く。同じように、大地の匂いは生きる意欲をかきたててくれる、と思う。草いきれ、雨後の湿った土の匂い・・。
 どちらかというと生きる意欲の希薄だった幼い頃の私も、そんな匂いの中にいる時は生きていることを実感していたような気がする。だんだん自然も少なくなって、今の子ども達はどこで、何によって現実と繋がっているのだろうと心配になることがある。
 そんな事を漠然と思っていたせいか、娘が生まれて物心がつく頃には「くんくんしてごらん」と言って、色んな物の匂いを嗅がせていたように思う。花の香り、果物、野菜・・。それが効を奏してか、アレルギーで鼻をよくつまらせていたにもかかわらず、私がジュースなどを飲んで台所から二階へあがっていくと、私の膝の上に座って、口の周りの匂いを嗅いで、「お母さん、ぶどうジュース飲んできた?」等と言い当てるようになってしまった。
 残念ながら絵本では匂いを嗅ぐ事はできない。けれど、その匂いが伝わってきそうな絵本がある。ルース・クラウス文、マーク・サイモント絵『はなをくんくん』(福音館書店
 寒蘭の香りを知っているだろうか。清澄な秋の大気の中を、どこまでもどこまでも拡がっていくような香り。そして、この香りはどこから来ているのだろうと見ると、地味な色合いの小さな花からきていることに、ようやく気づく。この絵本の中で香っているのは、そんな香りのような気がする。
 雪が降っている。動物達が眠っている。やがて目を覚まし、鼻をくんくんさせる。そして、みんな駆け出す。白と黒の雪の世界に、黄色い花が一輪咲いていたのだった。最後のページに、花を見つけて「うわぁい!」と叫び出す動物達の喜びが溢れているようだ。
 季節の移り変わりを感じられる自然を、子ども達に残しておいてやりたいものだと思う。

 −読んであげるなら3才から−と書かれているが、私は1才からでも良いと思う。ちょろちょろ動き回って、聞いているのかいないのか分からなくても構わない。部屋の中で声を出して読んでいれば、耳には聞こえている。


この文章は10年ほど前に書いたもの。あれから、私たちの日本の自然の状況はますます酷くなった。