風と、光と・・・

すべての人を照らすまことの光があって、世にきた。(ヨハネによる福音書1:9)

怪物が目覚めた地(2012年8月5日の新聞記事より)

 「ウランは地下に眠る巨大な怪物だ。ヒロシマナガサキチェルノブイリ、そしてフクシマ。誰も制御できない力で人々を苦しめる。我々がその怪物を起こしてしまった」
 米ニューメキシコ州北西部のチャーチロック地区。先住民ナバホ族のトニー・フッドさん(62)は砂ぼこりが舞う大地を見つめ、つぶやいた。

(中略)

 ナバホ族約25万人はニューメキシコ州からアリゾナ州などにまたがる約7万平方キロに暮らす。保留地のウラン採掘は05年にナバホ自治政府によって禁じられたが、ウランの国際需要の高まりを背景に周辺で再び採掘する動きが出ている。
 住友商事とストラスモア社(カナダ)が出資する「ロカホンダ・プロジェクト」もその一つ。

(中略)

 取材を進めるうち、廃坑近くで今年1月まで暮らしていた日本人女性に出会った。秋田県出身のみゆきトゥーリーさん(38)=アルバカーキー在住。08年にナバホ族のノーマン・トゥーリーさんと結婚し、アリゾナ州ブルーギャップ地区のナバホ族保留地で生活した。(中略)
「東京の短大を出た私は都会の便利な暮らしが普通と思っていた。ウランに興味もなかった。毎日使う電気の源が世界中の先住民の土地から運ばれ、その先住民がいまだに放射線被害に苦しんでいることを何人の日本人が知っているだろう」。みゆきさんは今、そう思う。ノーマンさんは「ウラン鉱山会社が来て猟や農作を営む土地を奪われ、家族やコミュニティーが引き裂かれた。我々の苦しみはフクシマの人たちの苦しみと同じ。ウランを掘り起こしたことはとても危険な行為だった」と訴えた。

(中略)

郁子さんは10年ほど前から、教会から依頼を受けて原爆について語り始めた。原爆が作られた地にいるからこそ、原爆のむごさを語り継ぐ大切さと自分の役割に気付いたからだ。(中略)
 しかし、米国では、第二次世界大戦を早く終わらせるためだったと、原爆投下が正当化されている。講演後、出席の女性から「なぜ(原爆を)落としたか、あなたも知っているはずでしょう」と詰め寄られたこともある。郁子さんは「原子力がいつ核兵器に使われるか分からない。過去は変えられないけど、未来は変えられる。被爆国の人間だからこそ訴え続けないといけない」と話した。

 日本で二十数年暮らし、今はナバホ族保留地近くに住む女性宣教師、ローズマリー・チェッチーニさん(78)から聞いた言葉を思い出した。「放射能ヒロシマナガサキのヒバクシャを苦しめ、戦勝国アメリカの先住民も苦しめている。日本の被爆体験を世界が共有し、人類や自然を破壊する核の連鎖を止めなければならない」

(中略)

 原子力はウランを採掘する人々の健康を脅かし、放射性廃棄物で彼らの大地と水を汚していた。地球の裏側に住む先住民の痛みに気づかず、無意識に新たなヒバクシャを生み出していたのではないか・・・。未明の帰国便の中で、私はそう自問し続けた。

             (重石岳史氏取材による2012年8月5日の新聞記事より抜粋引用)