くりやのうた
指にそむ新しい野菜のみどり
けさ すがすがしい夏の風
すっきり庖丁の水気をぬぐってパンを切ると
パンの弾力は 生活の力のよう
少しかおり立つバタの金いろ
こうしてじっとくりやに立ち
にぎやかな子供たちの朝の声をきくとき
私はいつも 私の幸せに心を打たれる
おしげもなく七月の水をつかって
清めた指先のバラいろの指に
貧しさにも心労にも負けないもののあるとき
私は こうして生きようと思う
くりやを城とし 巣箱としていのちを育て
悔なく一生を 生きたいと思う
この詩を読めば、この人は子供たちに囲まれて幸せな人だったのだと思うかも知れない。けれどこの作者は、出産の後、病気のために婚家を出され、一人息子を遠く思いながら生きた人だ。
想像力とは、今味わっていない幸いを思い描く力なのかも知れない。
自分とは遠く離れた人の苦しみや悲しみを思いやる力なのかも知れない。