風と、光と・・・

すべての人を照らすまことの光があって、世にきた。(ヨハネによる福音書1:9)

イ サンクム=著『半分のふるさと』と武田英子=著『人形たちの懸け橋』


イ サンクム=著『半分のふるさと 私が日本にいたときのこと』(福音館書店

この本は、私たちが札幌に引っ越した頃、「皆さんで読んで欲しい」と、ある老齢の牧師からおくられた児童書だ。
「はじめに」から引用してみる。
 このお話は、韓国が日本の植民地だったころ、日本に住んでいた私の家族の生活を語るものである。・・。(中略)
 私は、すでに還暦をむかえている。人生の締めくくりを考えざるをえないこの年になって、私は、ときたま私の子ども時代に、切実な思いをはせることがある。考えてみると、私は、私の人生のうち、初期の四分の一を日本で過ごしている。それは、私にとってかけがえのない歳月であり、そこに、私の人生のルーツがある。韓国人でありながら、韓国内のどこに行っても、私の子ども時代は浮かびあがらない。頑是ない子どもだったころの私の姿には、いつも日本の山河が色濃い背景になるからである。

在日朝鮮人として子どもの頃を日本で過ごしたという体験と、親の転勤によって故郷を離れたというだけの体験とでは大きな違いがあると思いながら、それでも私はこの本を娘に読み聞かせしたのだった。読みながら私自身も所々で涙をこぼしたが、娘も聞きながらぽろぽろと涙をこぼしていたのを今でも覚えている。

近頃、朝鮮学校や東京のコリアン街で侮蔑的な言葉をもって中傷するヘイトスピーチというものが広がっているようだ。

日本人が多く移民として移り住んだかつてのアメリカで、安い給料でも働く日本人の排斥運動が活発になったという事実が、武田英子=著『人形たちの懸け橋』(小学館文庫)の中に記されているが、失業者が増える一方の今の日本でも同じようなことが起こりつつあるように思える。

『半分のふるさと』には、出会った小学校の担任教師によって日本人への心が開かれた体験が語られているが、ヘイトスピーチのような行為が広まりつつある中で、「平和をつくり出す者」としての自覚を持ったキリスト者の存在がますます重要になってくると思わされる。しかし、「平和をつくり出す者」としての自覚を持ったキリスト者がはたしてどれだけいるだろうか。

平和をつくり出す人たちは、さいわいである。彼らは神の子と呼ばれるであろう。(マタイによる福音書5:9)


武田英子=著『人形たちの懸け橋 日米親善人形たちの二十世紀』(小学館文庫)