風と、光と・・・

すべての人を照らすまことの光があって、世にきた。(ヨハネによる福音書1:9)

病葉(わくらば)

鷺草(サギソウ)を託して母の手術前
病む母の枕辺に置く日日草ニチニチソウ
擬宝珠ギボウシの蕾ふくらむ母の留守
病葉(わくらば)に降り止まぬ雨 濡れタオル
じりじりと虫鳴く闇に老いの母
無口なる叔父の優しさ 晩夏光(ばんかこう)
付き添へる夜明けて街は秋日差し(あきひざし)
病室に咲きこぼれをり花丁字ハナチョウジ
病床の母と語らふ 未草ヒツジグサ
臥す母の気にかけてゐる秋の庭

桔梗(キキョウ)の白も咲きたる母の庭
水引草(ミズヒキ)も盗人萩も母植ゑし
白、黄色小菊群れ咲く留守の家
よくもまあ小さき庭に秋の草花
もう10年以上前になる。頸椎の手術を受けた母が譫妄状態に陥ったので付き添いに来るようにと夜中に病院から呼び出しの電話が来た。朦朧とした状態で起き上がっては家に帰りたがる母を宥めながら、ひたすら俳句を作っていた。自分のそのような状態を客観視して俳句を作ろうとすることで、自分を支えようとしていたのだと思う。作った句を師匠に見せると、句のできばえはともかく、俳句を作ろうとする行為が私を支えたということをとても喜んでくれた。

十数年の間推敲を繰り返し結局元に戻ったものや、生まれ変わったもの、最初に出来たままのもの等、書き連ねてみた。

花丁字は季語にはないが、その頃母が庭に植えていた花だったので、他のものに代えることができなかった。

あれから10年以上の年月が経ち、母も、付き添いを代わってくれた叔父も、俳句の師匠も、もうこの世にはいない。そうして今では、
なんとまあ小さな庭に、な・つ・く・さ

生ひ繁る草かき分けて水引草(みずひき)の林見つけぬ母なき庭に