風と、光と・・・

すべての人を照らすまことの光があって、世にきた。(ヨハネによる福音書1:9)

装幀の仕事

「装幀の仕事をしたい」子が言へば天、平、小口、奥付も見る
出版社装幀家紙漉職人 上(かみ)へ上(かみ)へとさかのぼりゆく
源流へ遡上せんとやわが娘つひには山で木こりとなるかも
あとがきに「地母神・・」とあればジャケットにセノルビ地母神隠れてゐたり
ちさき胸に希望と不安かかへ持ちゆらりゆらりとどこまでゆくやら

「短歌研究6月号」の詠草欄に投稿した五首だ。残念ながら掲載されたのは一首目だけだったが、私としては四首目をこの一連の要として詠んでいて、気に入っていた。でも、表現し切れていなかったかな?
四首目は歌人松村由利子さんの歌集『大女伝説』の装幀を詠ったものだ。
美しいブルーの写真のジャケット(カバー)と帯を外すと、中からサルディーニア島セノルビから出土したという地母神の写真が現れる。松村さんが「あとがき」の中で地母神について言及しているからだ。この地母神の写真を発見して、私は、娘がやりたいと言っている「装幀の仕事」も、素敵な仕事だと思ったのだった。しかもジャケットの下にそっと隠れている様子が、子どもの事を心配して、こっそり隠れて見守っている母親のように思えて・・。

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装幀は加藤恒彦さん、カバー写真は山西隆則さん。

本物の歌人の歌を一緒に載せれば、私の歌の下手さ加減が際立ってしまうのだけれど、歌がもちろん素晴らしいので、どうしても紹介したいと思う。

六月の鯨うつくし墨色の大きなる背を雨にけぶらせ
食うものと食われるものの美しき戦いなりき勇魚(いさな)とりとは
海に棲むものらはノアの手を借りず大洪水をやり過ごしたり
海の牧者シー・シェパード 守らんとする傲岸を彼ら笑えば大波となる
日に三度兆すかなしみ闇いくつ呑みて鯨となるわたくしか
       松村由利子歌集『大女伝説』(短歌研究社)、「遠き鯨影」より

四首目では鯨が大きく口を開けて笑っているのが私の目に浮かぶのだが、松村さん、解釈が間違っていたらごめんなさい。
表題となっている大女を詠った可愛らしい歌も、もちろん載っています。どうぞ、お手に取ってお読み下さい。