雪うさぎ
新川和江
雪をください
どっさりでなくていいのです
この木のお盆に ほんのひと盛り
わたくしが子供の頃は
東京周辺でも
天からの年賀客のように
お正月にはきまって雪が降ったものです
朝目をさますと枕もとに
母のつくってくれた雪うさぎが
ちんまり坐っているのでした
あの つめたくて
かなしいほど美しい雪うさぎを
わたくしも幼い娘に
つくって見せてやりたいのです
愛することにも 愛されることにも
それなりのいたみや悲しみがともなうものだ
ということを
撫でられてとけてゆく雪うさぎが
ちいさな掌に おしえてくれることでしょう
わたくしがそれを知ったのも
しぃんと静かな お正月の朝でした
『お母さんのきもち』より