風と、光と・・・

すべての人を照らすまことの光があって、世にきた。(ヨハネによる福音書1:9)

雪うさぎ

     雪うさぎ
                 新川和江
   雪をください
   どっさりでなくていいのです
   この木のお盆に ほんのひと盛り

   わたくしが子供の頃は
   東京周辺でも
   天からの年賀客のように
   お正月にはきまって雪が降ったものです
   朝目をさますと枕もとに
   母のつくってくれた雪うさぎが
   ちんまり坐っているのでした
   あの つめたくて
   かなしいほど美しい雪うさぎを
   わたくしも幼い娘に
   つくって見せてやりたいのです
   愛することにも 愛されることにも
   それなりのいたみや悲しみがともなうものだ
   ということを
   撫でられてとけてゆく雪うさぎが
   ちいさな掌に おしえてくれることでしょう
   わたくしがそれを知ったのも
   しぃんと静かな お正月の朝でした
        
           『お母さんのきもち』より

新川和江詩集『お母さんのきもち』(小学館