遠街に人あらはれて消ゆるなり神よ悲哀を目守りたまはな 『鷹の井戸』
眠れぬままにカーテンを少しだけ開けて明るくなった外の光を入れ、葛原妙子の歌集を捲っていた。生きては死んでゆく人の悲哀を詠っている、と思った。
みゆるごとあらはれながらとこしへにみえざるものを音といふべき 『鷹の井戸』
これは、〈神〉を詠っている。
玻璃鉢にシャロンの薔薇の浮けりけるさびしきろかも めぐりもとほる 『鷹の井戸』
この歌は、『鷹の井戸』の前歌集『朱霊』の次の歌が元にある。
鉢に盛りし雪の結晶溶けやらず恩寵とは仮空のものながら 『朱霊』
神の恩寵、キリストへと、確かな手応えを求めても得られないまま、心は常に巡りまわる。
花は咲き溢れ 大いに喜びの歌声を上げる。レバノンの栄光とカルメルとシャロンの輝きが砂漠に与えられる。人々は主の栄光と私たちの神の輝きを見る。(イザヤ書35:2 聖書協会共同訳)