風と、光と・・・

すべての人を照らすまことの光があって、世にきた。(ヨハネによる福音書1:9)

ロアルド・ダール=作『ぼくのつくった魔法のくすり』(評論社)

昔書いた子どもの本の紹介から

ロアルド・ダール=作『ぼくのつくった魔法のくすり』(評論社)

ダールの作品には、普通ではちよっと考えられない嫌らしい大人が出てくる。このお話でも、主人公のおばあさんが意地悪で狡猾な人物として登場する。

いじわるなグランマと二人っきりで留守番をすることになったジョージは11時にグランマに薬をあげるように言いつけられる。

グランマは一日四回キチンキチンと薬を飲んでいるけれどいっこうに良くならない。飲んだ後も飲む前とまったく変わらず、いじわるく、いやらしい。「薬って人間を良くするはずのものだ。それができない薬なんてただの水も同じじゃないか」と考えたジョージは自分で新しい薬を作る。

最初に“やわらか・キラキラ-ヘア・シャンプー”。「これで、グランマのおなかのなかはやわらかくてキラキラになるだろう」。
それから、“自動式洗たく機のためのマッシロケせっけん。がんこなよごれもアッというまに落ちます。”。「グランマが自動式かどうかはよくわからないが、がんこで、よごれていることは、たしかだ」
“救馬丸イナナキ。のどをいためたウマに、一日一回、一錠ずつあたえてください”。「グランマは、のどをいためちゃいない。でも、口がわるいことは、たしかだ。これを飲ませたら、きっとなおるぞ」と、色々な物を次々混ぜ込んで魔法の薬を作ってしまう。
そして、それを飲んだグランマは最後の最後に消えてなくなってしまうのだ。

目の前で実の母親が消えてしまって途方に暮れた顔で歩きまわっていたジョージのママは、しばらくすると、こう言う。「そうね、まあ、これでよかったのかもしれないわね。ママも、けっこう、やっかいなひとだったものね」。このお話に素敵な大人は一人も出て来ない。

ダールは、私達の心の奥にひそんでいる醜悪なものを、私達の目の前に突き付けて、見せる作家だ。

自分自身の心の奥にある醜いものに気づかないで一生を終える人は幸せかも知れない。けれども、それに気づいて生きる方を私は選びたいと思う。その方が真実に近く生きられるような気がするからだ。自分の中にひそんでいる醜さを見据えた上で、人に優しくなれる人間になりたい、と私は思う。

良い子を演じることを長く強いられてきた子ども達に、是非とも勧めたい一冊だ。

 

私は、欺瞞の中では生きられないのだ。特に、自分自身を誤魔化して生きることには耐えられない。

 

myrtus77.hatenablog.com