風と、光と・・・

すべての人を照らすまことの光があって、世にきた。(ヨハネによる福音書1:9)

葛原妙子57

二十四本の肋骨キリストなるべし漁夫は濡れたる若布を下げて 『原牛』

『原牛』は葛原妙子の第五歌集である。「あとがき」には、「この歌集に収められている歌が歌われた期間に、十日ばかりの旅を二度することが出来た。原牛、は日本海をみて得た名である。原牛は砂丘砂丘のあいだに定まり力充ちた海であった。力充つるがゆえに、りりと寒いものの悲哀であった」と記されている。そしてこれに続けて、「私はそのころからようやく人間一人の限界と、同時に価値をも、あわせて思い知って行ったように思う」(『葛原妙子全歌集』(砂子屋書房と記している。私は、「あとがき」のこの一文を見て、『原牛』は葛原妙子の転換点に位置する歌集だと考えたのだった。

歌集『原牛』の中の歌群「原牛」には、「日本の裏がはを旅して」と添え書きがなされている。
「裏日本」等というと、今では差別用語だと捉えられるのではないだろうか。しかし、ここには、「雪深く、あるいは砂に覆われて、生きるに厳しい地」という想いが込められていると思われる。上掲歌はその中の一首である。ー荒々しい日本海の海辺で、濡れた若布を下げて、今、目の前に顕れた漁夫は上半身裸で二十四本の肋骨を露わに晒している。この漁夫は、きっとキリストであるに違いない。

この歌の後には以下のような短歌が措かれている。

海の辺に砂飛ぶ戸あり、蒙古斑するどき嬰児を筵に置きぬ
南風に昏れざる漁村石に摺る青菜の青きしたたりは止まね
山越ゆるたちまち扇型に土を這ふ熱風(フエーン)とならば黒き村落

そしてこれらの歌から四頁ほど後、「原牛」の中の[風媒]「十字架を組みたる材はなにならむ」等のイエスを詠った歌が現れる。

南風のしづまる街にかたへなるたしかめがたくうすらなる人
この歌については「葛原妙子14」「15」でもすでに書いてきたが、ここに繫がる歌として、今回、「二十四本の肋骨」の歌を捉えることができた。

そののち、イエスはテベリヤの海べで、ご自身をまた…あらわされた。(ヨハネ福音書21:1)


私たちは教会という組織や具体的な人間の一人である信者につまずきがちだが、妙子は、晩年に向かうにつれてイエス・キリストへと目を向けていったのではないかと思う。

かすかなる灰色を帶び雷鳴のなかなるキリスト先づ老いたまふ 『をがたま』
(よ)りかかるキリストをみき青ざめて苦しきときに樹によりたまふ

聖書を読んでもなかなか具体的にイメージできない場面というものがある。十字架上でイエスが、母マリヤと弟子に向かって「婦人よ、ごらんなさい。これはあなたの子です」、「これはあなたの母です」と語りかける場面などもさらりと読んでしまって、断末魔のイエスの状況は思い描けていなかったりする。昨年、知人から勧められDVDをお借りして『パッション』を観た。息も絶え絶えの様子でマリヤに語りかけるこの場面でのイエスの姿に虚を衝かれた思いがした。そしてこの映画を観て、葛原妙子の晩年の上の二首を思い浮かべたのであった。イエスが刑場へと追い立てられて行く時のよたよたとよろけながら歩く姿はまるで年老いた人の様であった。妙子は、そうしたイエスを、キリストを、聖書から読み取って、歌の中に描き出していたのである。

聖書からイメージして、現実の世界の中で、このキリストを克明に描き出す力が信仰を持つ上で大きな力となったのではないかと思われる。
キリストは二十四本の肋骨を持つ人間となって実際にこの世界に来られたのだ。私たちが、生きるために、食べるために、青菜をすり潰し、若布を採って糧としなければならないこの世界に。

そして言は肉体となり、わたしたちのうちに宿った。わたしたちはその栄光を見た。(ヨハネによる福音書1:14)


第三歌集にもまたキリストの肋骨を詠った歌がある。

その胸よひた思ふなり肋骨が知慧のごとく顯ちたる胸を 『飛行』
「知慧」には「ちけい」と読み仮名が施されている。
「あばら骨」というと、創世記で、女がそこから造られたということで「アダム」を思い浮かべると思われるが、ここでは、「肋骨」という言葉が使われ、「知恵」に「ちけい」と読み仮名がふられていることによってキリストのイメージがくっきりと彫り刻まれた印象を受ける。まさに肋骨の中にキリストのイメージが、「知恵のごとく立ち」上がって、顕れているのである。
知恵をふところに抱け(箴言4:8)
幼子はたくましく育ち、知恵に満ち、神の恵みに包まれていた。(ルカによる福音書2:40)
エスは知恵が増し、背丈も伸び、神と人とに愛された。(ルカによる福音書2:52)
キリストは神の力、神の知恵なのです。(1コリント人への手紙1:24)



● 『ニッポン一億総活躍プラン』(笑)と『シャープ、東芝の決算』、それに『0520 再稼働反対!首相官邸前抗議』&『安倍政権の退陣を求める国会前抗議行動』
さて、今週 内閣府から「ニッポン一億総活躍プラン」』が発表されました。
(中略)
でも選挙情勢をみながら、リベラルな再分配政策をささっとパクれるっていうのは官僚組織の優秀さを感じます。自民・民進、双方で勉強会の講師をやってる人の話だと安倍晋三は経済には興味も関心も知識もないそうですけど、経済政策は改憲の道具として割り切って官僚を使いこなしているのには残念ながら感心します。…。
それでも18日に民進党の岡田が党首討論で、安倍晋三に先だって『消費増税延期を』と要求したのは良かったと思います。
(中、大幅に略)
と、いうことで、今週も再稼働反対の官邸前へ。今日の午後6時の気温は19度。デモ日和です。参加者は800人だそうです。
(中略)
そのあと、国会前の高校生たち、『安倍政権の退陣を求める国会前抗議行動』へ転戦。と、言っても高校生たちより、応援の大人の方が遥かに多いんですが(笑)。参加者は延べ5〜600人くらいですかね。