風と、光と・・・

すべての人を照らすまことの光があって、世にきた。(ヨハネによる福音書1:9)

アトピー対策の観点から『あの日』(講談社)を読む(やはり亜鉛と銅の割合が大事!)

 ディスパーゼという酵素液に採取した組織を浸し、まずは、上皮と真皮を結合させているタンパク質を分解して上皮組織を剥がせる状態にする。そして0・1ミリほどの厚さの上皮組織を滅菌されたピンセットで優しくつまみ真皮組織から剥がす。真皮の細胞は上皮細胞よりも増殖能が強いので、この時に真皮の細胞が混ざってしまうと、真皮の細胞の増殖能に上皮細胞が負けてしまい育たないため、慎重にゆっくりと行う。採取された上皮組織をトリプシンという酵素でバラバラにして上皮細胞を集め、前日に用意しておいたフィーダー細胞上に上皮細胞をできるだけ均等に散在させるように播く。一匹ずつ実験を行うため、最大で一日に6匹ほどをこなすのが限界だった。毎日、口腔粘膜を採取したラットが元気にしているかを観察し、そのラットから採取した上皮細胞が育っているかを観察した。ラット自身もその細胞も、どちらかに問題が起きたらこの実験系は、失敗に終わる。
(中略)
 ようやく温度応答性培養皿上の細胞がシート状に回収できる状態になると、再びラットに麻酔をかけ、背中の毛をバリカンで剃毛し、皮膚の消毒を行う。…。…、ラットが術後に動いても手足の届かない背中の皮下に、直径35ミリの向こう側が透けて見えるほどに薄い、移植されるラット自身の口腔粘膜上皮細胞シートを自家移植した。ラットへの負担を減らすため、丁寧にかつ素早く移植部位の皮膚の縫合を行う。手術が終わるとまた両手でラットを温め、ピクピクと動き出すと、「頑張ってくれて、ありがとう」という気持があふれ出す。術後の感染を防ぐために清潔な床敷きのケージに戻し、次は経過を待ち、移植した細胞シートの解析を行う。(『あの日』小保方晴子=著(講談社)より抜粋引用)

『あの日』を読んでいて非常に興味深い内容だと思っていたところへ、「エラスチンとセラミド どっちが必要」という検索をかけて来られた方がいた。今思うと、この問いかけは私にとってとても重要な問いかけだったと思う。そこを辿って行って以下の過去記事に辿り着いた。私の中でまだ全てが解明されたわけではないが、頭の中を整理するためにまとめておこうと思う。

アトピーとの闘い’14−10(亜鉛とナイアシンとの関係)

この過去記事では、美容サイト(今このサイトがどこだったか分からない)で見つけた「セラミド」について書かれたものを引用している。
以下に、再度引用する。


セラミドは、脂肪酸アミノ酸が結合してできた脂質です。 脂肪酸アミノ酸という、体の中ではごくありふれたものから作られるものなので、特別な何かを食べる必要はありません。 ただ、そのありふれたものからセラミドを合成する過程では、ビタミンB2、ビタミンB6、ナイアシンが必要になってきます。
セラミドの多い肌を作るためには、ターンオーバーを活発に起こすことが重要ですね。 ターンオーバーは、顆粒細胞の下の方にある基底細胞が細胞分裂をすることで始まります。 細胞分裂をスムーズに起こすためには、亜鉛とα-リノレン酸、そして葉酸やビタミンB12が必要でしたね。 これらの栄養素は、毎日積極的に摂りましょう。(抜粋引用)


アトピー性皮膚炎の人は遺伝的にセラミドが造れない体質だと聞く。それでセラミドを造るにはどうしたら良いのだろうと考えて調べたのだった。けれど、体内の亜鉛が増えすぎて「銅がやられている」と思い始めてから、セラミドが存在する表皮より真皮の方に注意が向かってしまっていた。「銅はナイアシンと共に真皮を造る」と標語の様に頭に入れていた。これは一体どこからこのように考えはじめたのだろうかと過去記事を遡って分かった。

ナイアシンは主に補酵素として働いており、体内のすべての酵素のうち、2割はナイアシン補酵素として必要とします。特に糖質、脂質、たんぱく質からエネルギーをつくり出すプロセスにおいて、重要な役割を果たしています」
「銅はさまざまな酵素を構成する成分としても重要です。たとえば、血管壁や骨をつくるコラーゲンや、肌の弾力を維持するのに欠かせないエラスチンが生成されるときに働く酵素の成分にもなります。加えて、肌を紫外線から守るメラニン色素が生成されるとき働く酵素を合成する際にも銅は大切な働きをしており、つややかで健康的な肌を守るためにも、銅は欠かせません」
                (井上正子=監修『栄養学と食のきほん事典』(西東社)より)

これはつまり、「ナイアシンと銅とヒスタミン(アレルギーの観点から)」でも書いたように、銅は銅タンパク質の形で、コラーゲンやエラスチンを造る際のビタミンCを助ける酵素として働いているということである。だからもちろん真皮は、銅とナイアシンとだけで造られているわけではない。逆から考えれば、銅は真皮だけでなく表皮を造る際にも働いているとも言えると思う。

堺章=著『目でみるからだのメカニズム』を開いてみた。表皮の一番下、真皮の上に位置する基底層は「角質産生細胞とメラニン産生細胞からなる層。細胞は分裂して、上の有棘層に移動」(『目でみるからだのメカニズム』)と記されている。メラニンの産生にもやはり銅タンパク質(チロシナーゼ)が使われるのだった。美容サイトには、「ターンオーバーは、…基底細胞が細胞分裂をすることで始まります。 細胞分裂をスムーズに起こすためには、亜鉛とα-リノレン酸、そして葉酸やビタミンB12が必要でしたね」と書かれている。ここから私は「表皮には亜鉛」と思い込んでいたのだが、銅も表皮で働いているのだ。同じことは、真皮における亜鉛についても言えるだろう。


 …。皮膚は表皮とその下に存在する真皮と呼ばれる組織で構成されている。再表層が外気に接していて角化し垢として剥がれ落ちる組織が表皮であり、コラーゲンなどの細胞外基質と呼ばれる成分を多く含み、肌に弾力を持たせている組織が表皮の下にある真皮である。この2種類の組織は発生学的には由来が異なり、表皮は外胚葉系の細胞であり、真皮を構成する線維芽細胞は中胚葉系に由来する細胞で、間葉系細胞とも呼ばれる。
 表皮細胞の培養法は、1975年にハワード・グリーン博士らによってヒトの表皮細胞の培養法が発表され、同時に重度のやけどの治療などにこの培養上皮を用いることができるのではないかという、まさに再生医療のための最初の提案も発表された。グリーン博士らの発表した表皮細胞の培養法は、まず抗がん剤によって、無限増殖を止める処理をした3T3細胞を培養皿上に播いて接着させ、翌日にその上から上皮細胞を播く。単独では上皮細胞は培養することができないが、この方法を用いると、増殖がとめられた真皮の細胞(3T3細胞)から上皮が増殖するのに必要な因子が分泌され上皮が育っていく。上皮が育つ間に、増殖できない真皮の細胞は死滅して、最終的に培養皿上に残るのはシート状に育った上皮細胞だけになる。
 この3T3細胞のように、目的の細胞の培養に必要な未知の増殖因子を送るために、増殖能を止めた上で共培養される細胞はフィーダー細胞と呼ばれ、このようなフィーダー細胞を用いる培養法は、フィーダーレイヤー法と呼ばれる。このように上皮培養の研究には古い歴史があるが、興味深いことに、動物種によって表皮細胞培養の難易度が異なり、ヒトの表皮細胞の培養は比較的容易であるのに対し、特にマウスの表皮細胞は培養がとても難しいことが知られている。ただし、同じげっ歯類であっても、ラットの口腔粘膜上皮細胞はグリーン博士らによって開発された培養法で培養が可能であることが知られていた。表皮と上皮は同意で用いられることもあるが、表皮とは体の表面を覆っている皮膚の表面細胞を意味することが多く、上皮というと組織の表面を覆っている細胞を意味することが多い。(小保方晴子=著『あの日』(講談社)より)

:赤字表記は、ミルトスによる。

亜鉛が不足すると細胞分裂がはかどらず、子どもでは発育が遅れます。身長も伸びません。成人では、新陳代謝が活発な器官ほど亜鉛不足の影響を受けます。肌はかさつき、傷の治りが遅くなります。脱毛や、爪の白い斑点もあらわれます。胃腸も新陳代謝の活発なところですから、胃腸障害もみられます。(中村丁次=監修『栄養成分バイブル』(主婦と生活社)より抜粋引用)
つまり、細胞のあるところではどこででも亜鉛は働いているのであり、酵素を必要とするところではどこででも銅も働いているのだ、と思う。

娘が一人暮らしの都会生活から帰って来て、ステロイド剤を飲むのを止めた途端、激しいリバウンドを起こした。その時は、たまたまお昼に食べた鶏もも肉でいつも夕方から起こる激しい痒みが軽減されたということから、パントテン酸食材で治療を開始したのだった。5月、6月とだんだん良くなっていったのだが、ある程度良くなってから2か月位の間、なかなかすっきり治りきらない状態が続いた。その頃の症状は、普通28日サイクルで入れ替わるはずの表皮が定着せず、すぐにボロボロと剥がれ落ちていくという状態だった。この時の状態がどういう栄養バランスで起こったのかまだ分析できていないのだけれど、亜鉛が多すぎればこのようになるのではないかと漠然と今思っている。あの頃はまだ「亜鉛」という栄養素に思い至っていなかったのだけど、その後、亜鉛を摂りすぎると甲状腺機能を亢進させるということも解った。甲状腺機能亢進症は、代謝が促進される病気である。

今回、皮膚の表皮について調べ直して、もう一つ勘違いしていたかも知れないと思ったことがあった。表皮の下から2番目の有棘層について、「表皮の中で一番厚い層。表皮には血管はないが、この層には組織液が流れて栄養をつかさどり、また、知覚神経が本層まで分布」(『目でみるからだのメカニズム』)と記されている。亜鉛で銅がやられていると気付いた時、引っ掻かなくても組織液が吹き出してくるような状態だった。それで、毛細血管や知覚神経の入っている真皮がやられていると思い込んでいたのである。引っ掻いて血が出ている場合は真皮もやられていると思うが、あの時は、表皮の(組織液が流れ栄養をつかさどっている)有棘層、(角質やメラニン産生細胞からなる)基底層が損傷していたのかも知れない。
いずれにしても皮膚にとって銅が大事であること、ヒスタミンの暴走を止めなければならないことに変わりはないと思うのだが・・。

さて、丁寧に記された小保方晴子さんの『あの日』は色々なことを考えさせてくれ、私にとってはとても有り難い書物となりそうだ。出版して下さった講談社に感謝!

参考書籍:堺章=著『目でみるからだのメカニズム』(医学書院)

関連過去記事→アトピーとの闘い'14−5(日焼けや潮風、そして花粉など外からの刺激に・・)