風と、光と・・・

すべての人を照らすまことの光があって、世にきた。(ヨハネによる福音書1:9)

「El Camino(エル・カミーノ) 僕が歩いた1600km」芳賀言太郎のエッセイ第18回


 私は急いで決めなければならなかった。霧の中を前へ進むかーーまたは、…。
 …。サンチャゴへの道をこんなにも長い間、歩き続けた揚げ句、サンチャゴへの道は私を「歩かせ」始めたのだった。
 …。
 その声は森のどこかから来たのではなく、私の中のどこからか来ていた。私はその声をはっきりと聞くことができた。…。その声は私にただ、歩き続けなさいと言うだけだった。…。道は私を本当に「歩かせて」いたのだった。

       (パウロ・コエーリョ星の巡礼』より)

「El Camino(エル・カミーノ) 僕が歩いた1600km」第18話 メセタの大地とロマネスクの至宝 〜ブルゴスからフロミスタ〜
 朝は真っ暗である。ヘッドランプをつけて闇の中を歩く。雨が降り出し、とても寒い。途中で廃墟を見つける。カスティージャ王アルフォンソ7世の命によって1146年に建てられた修道院の跡である。…。現存する建物は14世紀のものである。廃墟となったフライング・バッドレス(飛び梁)がアーチとなって巡礼路の上に架かっている。それをくぐり歩みを進める。現在はその一部がアルベルゲになっており、宿泊も可能である。
 雨に打たれて、体が冷え切っていた私は10時に着いたCastroherosの町に泊まろうかと本気で考える。今日の目的地(Fromista)の町まで30km以上もの道を歩くのは体力的にもそして精神的にもきつく、心が折れそうである。しかも、体を温めようとしてたまたま入ったバルが日本の古民家のような雰囲気で居心地が良い。今日はずっとここにいたいと思う。でも、ここで歩くのを止めるのはなんだか自分に負けるような気がする。たとえここで宿をとっても、気分良く過ごせないだろう。そんなことを考えて、先に進むことにする。もし、いつかまた、この巡礼路を歩くことになったら、ここに泊まろうと思う。

(中略)

 Fromista(フロミスタ)のSan Martin教会はスペインのロマネスクを代表する教会である。…。
(中略)
 荘厳とか華麗という言葉よりも、落ち着きとか静けさといったことばの方がしっくりくる。突出した特別な出来事のための舞台というよりも、あたりまえの日々の中にあるけっしてあたりまえではない出来事を思い起こさせてくれる場所である。
 このプロポーションの美しさは19世紀末の復元工事の賜物。…。…。その後教会としては使用されなくなったこともあって劣化が進み、屋根の一部陥没や構造壁の崩壊等、教会全体の崩壊が懸念される状態となった。そして19世紀末〜20世紀初頭に行われた大々的な修復工事によって「当初」の姿が回復されることになる。
 この修復工事は…建築家Manuel Aníbal Álvarez:マヌエル・アニバル・アルバレス (1850-1930)の手になるもの。彼は1873年マドリッド建築学校を卒業後…、中世の教会の修復を手がける。しかし、当時の歴史的建造物の修復は、「あるべき姿」の回復に主眼が置かれ、サン・マルティン教会の場合も、「その本来あるべき美しい姿を再現する」との考えから、修復というよりはむしろ改修ともいえる形での修復が行われることになる。その結果、サン・マルティン教会は、典型的なロマネスク様式の姿を「取り戻す」ことになる。
 問題は、今日であれば当然踏まれるであろう文化財の保護・修復の手順が踏まれなかったこと。現状がきちんと記録されず、…、Aníbal Alvarezの推定によってサン・マルティン教会の「あるべき姿」が「回復」されてしまったこと。さらに修復工事の管理が不十分だったために、改修から一世紀を経た現在、オリジナルな部分と修復部分の判別が難しくなってしまい、正確な建築の変遷を跡づけることができなくなってしまっていることである。
 たとえば、改修時に再現された柱頭彫刻には Réprica(複製)を表す「R」の記号が付されているはずなのに、それのないものが混じっているとも言われ、「修復ではなく改ざん」とまで酷評されたりもしているようである。
 もっとも、これは…。(抜粋引用)

コラム「僕の愛用品」の18回目は、ワイン容器プラティパス・ワイン 
 このプラティパスの便利なところは水の量によって容器変形できることである。…。
 私は一人で巡礼を行なった。ワインのボトルを開けるととてもじゃないけど、一本飲み切ることは困難である。…。ワインは空気に触れると酸化し、味が落ちるので飲み残しのワインは瓶で運ぶよりも理にかなっている。…。ただ、それではいかに安ワインといってもワインに失礼な気がする。そして、実際に使ってみて便利であったのは事実である。ワイン好きの巡礼者にとってはありがたいアイテムである。(抜粋引用)