風と、光と・・・

すべての人を照らすまことの光があって、世にきた。(ヨハネによる福音書1:9)

「El Camino(エル・カミーノ) 僕が歩いた1600km」芳賀言太郎のエッセイ第17回


● 第913回 ”かたじけなさ”と、日本のかけがえのない精神風土
 自分がよく知っている時空とは別の時空にも生と死の真剣そのものの世界があるということを実感することが大事なのだ。
(中略)
 歴史的建造物などを見る時も、宇宙人が作ったのかもしれないなどと言われたりするような、こちらの現実ではちょっと計り知れないスケールとか、…。(抜粋引用)

  
「El Camino(エル・カミーノ) 僕が歩いた1600km」第17話 休息日 〜ブルゴスでの休日〜
 サント・ドミンゴ・デ・シロスの帰り、思い立ってタクシーの運転手にウエルガス修道院に行ってもらうよう頼む。ウエルガス修道院の正式名は…シトー派の女子修道院である。

(中略)

 ブルゴスのカテドラルはスペインを代表するゴシック建築である。…。スペインゴシックの最高傑作である。…、天井の透かし彫りは本当に美しかった。吸い込まれたように視線が止まった。人々はその先の天上の世界を意識するのだろう。内部の彫刻も数多くあり、特にイエス・キリストの受難の彫刻は繊細ながらも大胆な構図で、イエスゴルゴタまでの道行きを表現していて見事だった。 スペインというとロマネスク建築を連想するが、実際には純粋なロマネスク建築というのはそれほど多くはない。特に巡礼路沿いの教会は巡礼者の増加に対応して収容人数を増やすために度々増改築が行われている。そもそもゴシック様式は構造上より広い内部空間を確保するために産み出されたわけだから、改築に際してロマネスク様式の教会がゴシック様式に作り替えられるのは不思議なことではない。さらに完成までに百年どころか数百年かかる大きな教会となると、会堂はロマネスク様式なのに塔がゴシック様式とか、塔も一層目の部分はロマネスク様式なのに二層目はゴシック様式、さらに三層目がルネサンス様式などということも珍しくない。じっさい、ロマネスクだバロックだと言い立てるのは後の時代の人々で、建てている時には、それが最新で人気のスタイルだということで建てているはずなのである。その中でこのブルゴスのカテドラルは、初めからゴシック様式で建てることを前提に建てられたものである。スペインのゴシック建築の傑作と言われるゆえんである。トレド、セビーリヤと並ぶスペイン三大カテドラルの一つとされ、1984年に世界遺産に登録されている。
 …。
  1221年、以前のロマネスク様式の聖堂があった場所に基石が据えられて着工。一時中断を余儀なくされるも…。…1567年に完成ということになる。建築期間は300年以上である。
 …。そのため、同じゴシック様式でも国毎、時代毎に違いのある様々なスタイルが取り入れられることになった。

(聖堂の美しい写真はリンク先で直接ご覧ください。)
 日曜日、体調は優れない。モチベーションもなかなか回復しない。…。
 お昼になり、レストランでランチを食べることにする。元気を出すため、ソパ・デ・アホ(にんにくスープ)を頼む。このカスティージャ地方はこのソパ・デ・アホというスープが有名である。地元の郷土料理のようなものである。にんにくをオリーブオイルで炒め(ベーコンが入ると豪華である)、水を注いで煮立てて溶き卵を回し入れ、塩で味を調えて完成。昔巡礼者には、これに固くなったパンを浮かせて提供したという。実に簡単で、日本に帰ってから何度も作ったのだが、どうしても巡礼中に飲んだあの味にはならない。単に気分の問題かも知れないが、これがソウルフードというものだと思う。
(スープに使った水(硬水と軟水)の違いがあるかも知れない。それから塩はどうだろうか? ミルトスが記す。 世界には数多くの料理があるが、スープのない料理はない。そしてスープはそれぞれの風土が生み出すものだ。その土地の食材をその土地の調味料で調理する文字通りのソウルフードである。日本なら味噌汁だろうか。体が温まる。ブルゴスでリフレッシュして明日に備えることにする。
 …。
 夜になって、モチベーションが下がっているのを感じる。体調が良くないと心にも影響するものだ。2日、歩かずに休んでしまって、緊張の糸が切れてしまったようにも思う。
 明日から気持ちを切り替えて、歩いていこうと自分に言い聞かせるが、はたしてどうなることやら。(抜粋引用)
 
コラム「僕の愛用品」の17回目は、寝袋(シュラフ) 
モンベル スーパー・スパイラル・ダウンハガー♯5

 旅に出ると睡眠時間は増える。なぜなら、夜にはやることがないからである。テレビは目のチューインガムだと言葉を残したのはF・L・ライトだが、まさしくその通りであり、夜が更けてもいつまでも見ていられるテレビも巡礼中はそうはいかない。アルベルゲは基本的に10時消灯である。6時に起きたとしてもたっぷり8時間睡眠である。そして、睡眠は重要な体力の回復時間である。睡眠の質が巡礼の質になる。スペインのアルベルゲでは寝袋は必須である。…。しかもそれが長期にわたって毎日なのであるから、寝袋の質は決定的に重要なのだ。
 寝袋については大きく分けてダウンと化学繊維がある。ダウンは軽いし(化学繊維の約半分)、小さい(化学繊維の6割程度)、何よりふかふか感がある。一方水に弱く(濡れると膨らまない、カビが生える)、…。…。
 それぞれに良さがあり、また弱点もあるが、一番の違いはその重さと価格である。ダウンは化学繊維の半分、値段は倍である。私は贅沢にもダウンのシュラフを買った。別に寝心地を求めたわけではない。たとえ値段が倍であっても、車が使えるキャンプと違い、自分で背負うことを考えると、軽さには代えられなかったのだ。
 モンベルはコストパフォーマンスが高い。そもそも、アイガー北壁日本人第二登などの実績をもつトップクライマーの辰野勇さんがモンベルを創業したのも、…。…。「モンベルのシェラフは伸びる」と言われ、「寝袋の中であぐらがかける」と言われている。
 さらに重要な保温性能は段階に分かれており、グレードは#0〜#5で数字が小さくなるほど使用可能温度が低くなり(つまり暖かくなる)、ダウンの量が増える(つまり高くなる)。当然のことながら購入したのは(できたのは)#5。別に極地や冬山に行くわけではないのでこれで充分(充分以上)である。
 ふわふわのシュラフに体を入れると、心地よく、疲れと相まってすぐに眠ることができる。何も考えずにただ眠ることができた巡礼路のシェラフでの眠りは、ある意味では最も心地よい眠りだったのかも知れない。(抜粋引用)