風と、光と・・・

すべての人を照らすまことの光があって、世にきた。(ヨハネによる福音書1:9)

葛原妙子53の番外編(オートミールに含有されるシスチンは放射線の害も防げるって?)

燕麦(オートミル)掬へる皿に落ちてゐしおほたにわたりの影にあらずや 『をがたま』補遺
『元素周期表で世界はすべて読み解ける』を読んでいて、以下のような記述に行き当たった。

 イオウは体内で7番目に多い元素で、原子の数でいうと人体全体の0・04%がイオウです。先ほど、メチル水銀システインと結合するために人体に害を及ぼすと述べましたが、これもシステインがイオウを含んでいるから起こることです。
 アミノ酸の中でメチオニンシステインにはイオウが含まれているので、含硫アミノ酸と呼ばれています。イオウは漢字で書くと「硫黄」で、「含硫」とはイオウを含むという意味です。
 実は、人体で働く多くの酵素メチオニンシステインを含んでいます。亜鉛はイオウと結合する能力を使って、こうした酵素の働きを高める作用を発揮しているのです。
 一方、カドミウムや水銀は、やはり酵素が持つメチオニンシステインと結合してしまうことで、酵素の働きをおかしくします。多くの場合、こうしてカドミウムや水銀が毒性を発揮してしまうというわけです。
 イオウと正しく結合する亜鉛が健康の味方、イオウと間違って結合するカドミウムや水銀が健康の敵だといえます。(吉田たかよし=著『元素周期表で世界はすべて読み解ける』(光文社新書)より抜粋引用)

これを読んで、システインではなく「シスチン」でなかったかと思い、手持ちの栄養素の本を確認してみると、やはり「シスチン」であった。が、これは、シスチンは「2分子のシステインが、メルカプト基 (–SH) の酸化によって生成するジスルフィド結合(S–S 結合)を介してつながった」(ウィキペディアものということだから、全くの間違いではないと思う。ここで問題なのは、その栄養素の本に書かれてあった内容の方なのである。

シスチン
 含硫アミノ酸(イオウを含む)のひとつで、牛肉、羊肉、牛乳、さけ、オートミール、小麦粉などに含まれます。
 …。
 さらにシスチンには、顕著な解毒作用があります。体内で代謝されるとイオウを出し、ほかの物質と反応して解毒作用をするのです。銅などの有毒金属や、喫煙、飲酒などによって生じるフリーラジカル活性酸素。細胞を傷つけ、病気をひきおこす)から、からだを守ります。
 治療を目的としてある程度の量を摂取すれば、X線放射線の害も防げることがわかっています。(中村丁次=監修『栄養成分バイブル』(2001年出版 主婦と生活社)より抜粋引用)

ここには、水銀については記されていないのだが、こういった情報は結構以前から出回っていたのではないかと思う。放射能についての情報も、日本に原爆を落とした時点でアメリカ側は情報を持っていたであろうし・・。

冒頭に掲げた葛原妙子の短歌は『をがたま』補遺からのものである。『をがたま』補遺については森岡貞香氏によって以下のような解説が附されている。

 第八歌集『鷹の井戸』の巻末の覚え書きに『本集』から洩れた歌三百余首、と妙子は記している。洩れた、という言葉は微妙である。次の歌集への予定として未収納の歌に触れていたとも思われる。この期間の歌には、百首詠「白嶺」(短歌研究昭和四十七年八月)その他から洩れているものがある。また未刊歌集『をがたま』に加えるべき「女人短歌」発表の歌十数首も後日に見出された。今回の砂子屋書房刊の『葛原妙子全歌集』に「補遺」として加えることにした。(『葛原妙子全歌集』(砂子屋書房)より抜粋引用)
夏至の火の暗きに麦粥を焚きをればあなあはれあな蜜のにほひす 『鷹の井戸』
なにゆゑにこの一隅のしづかなる老人が新聞をひろげしばかりに
麦粥を掬へる皿に落ちてゐしおほたにわたりの影にあらずやも

『鷹の井戸』ではこのように詠まれていた歌が、その後妙子の手によって、冒頭のように改作されていた可能性があるということである。

葛原妙子53で取り上げた「鷺・白鳥・鶴の類食ふべからずと旧約聖書申命之記」「水銀を含みにけりなしろとりの中なる鷺もつとも異(あや)し」の直前の歌でも「麦粥」ではなく「オート・ミール」と詠われている。

葛原妙子は医者の娘であり、医者の妻であった。こういったところからも一定の情報を得ていたのではないかと推定することができるように思われる。つまり、「オートミールが水銀を解毒する」という情報を得ていた、と。だから歌集を編纂するにあたって、こういった歌のつなげ方をしたのだと・・。

葛原妙子の初期の作品には以下のような歌がある。

医家の庭掘りゐるときのシャベル音異形(いぎやう)のものに突きあたりたり 『縄文』
鴉のごとく老いし夫人が樹の間ゆくかのたたかひに生きのこりゐて
荘厳なるガラスの鎧をまとひたる燈台光源薄暮の微光
光らざるひかりともれりうすやみに悲劇(ひいげき)のごとうつくしきかも
夜の部屋に異臭立ちをり拾ひたる海に棲みたるものの曝骸(なきがら)
わだつみの波に揉まれてうろこありしもののなきがらうろこをうしなふ
さながらに化石となりし海つものいきもののかすかなる腐臭を湛ふ
防風林の陰なる白亜微動せりThe Shiomisaki Radio Station
魚網(ぎよまう)の影きれぎれにまひなたを過ぐかのマラリヤの影にあらじか
徴兵とふ一語ひびくに敏き者敏からぬ者ラジオを聞けり

また、妙子が膨大な知識の下に、様々に思い巡らしていたことが分かるこんな短歌もある。

つひに火は神の格なりうす暗き土間の隅にし燃ゆるときしも        『飛行』
レントゲン線密室に放射せり雨後の雲高くありし真昼を          『原牛』
かの黒き翼掩ひしひろしまに触れ得ずひろしまを犠(にへ)として生きしなれば

さらに、『鷹の井戸』には以下のような歌も詠われている。

神殿の稲妻ならねラジウムのアルファ・ベーター・ガンマー放射線(レイ) 『鷹の井戸』
人工湖上に花火つめたく炸烈す あなやストロンチウムの深紅

主を畏れる人は誰か。主はその人に選ぶべき道を示されるであろう。(詩編25:12)

以下はツイートとリンク

文句ない週末なのにセシウムの語源は青と思い出してる 『いらくさのとげはいたいよ』